
歯朶尾 己知子さま
むろとを元気に!得意を持ち寄り親子で力を合わせて
(左)歯朶尾陽太さん(32歳)養鶏場経営 / 2022年・Uターン、(中央)歯朶尾 己知子さん、(右)歯朶尾大地さん(35歳)鍼灸院経営 / 2023年・Uターン
室戸市で民宿を営む歯朶尾(しだお)己知子さん。むろとで育った大地さん(次男)、陽太さん(三男)もUターンで戻り、それぞれに仕事を持ちながら、母 己知子さんをサポート。むろとを訪れる人々を温かく迎える歯朶尾親子にお話を伺いました。
Uターン後にわかった気づき。これまでのつながりを深め新しい出会いに感謝

皆さまのことを教えてください
己知子さん-
大阪からむろとへ来て37年、もう定住者ですね。夫の実家がむろとで、夫とまだ小さかった長男とともに引っ越してきました。
7年前に夫が他界し、心の落ち着きが出てきた頃、むろとを改めて知りたいと思うようになり、室戸市が開催するジオパークガイド養成講座を受けました。ジオパークとは、その地域の「生活・文化・産業・歴史」全てを用いて、地域のすばらしさを知ってもらうのが不可欠。それなら、もてあましてしているこの家を宿にするのは?と思いつき、4年前から宿泊施設『おうち宿しだお』をスタート。毎日客さんをお迎えし、喜んでいただいています。
※己知子さんは地域移住サポーターとしても活躍しています。
大地さん-
18歳までむろとで育ちました。卒業後は香川にある学校で鍼灸師の勉強をし、広島で就職。12年間暮らしたのち、室戸市へUターンし2年目です。むろとの中心部で鍼灸の治療院を営んでいます。鍼の免許を取ったときから、地元で開業したいという想いをもっていました。
陽太さん-
小学校のころから鶏を飼いたいという夢があり、農業大学に進学し、卒業後は香川県をはじめ県外の養鶏場で働いていました。養鶏場経営を視野にいれて働いていましたが、高知県の特産品のひとつ「土佐はちきん地鶏※」を育ててみないかという話が舞い込み、3年前にむろとへUターンしました。養鶏だけでなく、関連の仕事やそこから広がるご縁もあり、幅広く活動しています。
住まいは、僕も兄もそれぞれで暮らしています。経済的には一緒に暮らしたほうがいいのかもしれませんが。
己知子さん-
もう自立した大人だし、生活時間帯も違うので、別の暮らしがいいと思っています。遅くまで帰ってこないとなるとそわそわしてしまう。近くにはいるので、サポートしあえる距離で十分(笑)。
※土佐はちきん地鶏とは、土佐九斤(とさくきん)と大シャモの血を受け継ぐ地鶏。ほどよい脂があり、適度な歯ごたえと強い旨味が特徴。焼いてもジューシー感が味わえる。
むろとのことやUターンをして感じたことを教えてください
己知子さん-
むろとは、のどかで自然の豊かなところです。山草や魚など食べるものがすぐそこにあり、採るのも楽しく、美味しくいただける― そういうところが好きです。宿泊の方からも、作る料理を美味しいとほめていただくのですが、素材や水が良いからでしょうね。
夫は海や川で、釣るだけでなく突いたり、貝などを獲ったりしていました。こどもたちも夫と一緒に出かけていたので、生活の知恵や遊びが身についたんじゃないかな。近所の方から山で捕らえた猪の肉を分けてもらったりするなど、海や山の自然の食材をいただいてきましたね。
大地さん-
母が言うように、父に教えてもらった“釣る”“突く”“獲る” ができるので、ここでの暮らしを楽しんでいます。
総合的に言えば都会が便利かもしれません。知り合いの中に、むろとの食べ物に惚れて移住してきて、さらに世界にPRしたいと動いている人がいます。僕も不便さは承知のうえで帰ってきていますが、ビジネスで動く際は移動が大変ですね。
大人になって気づいたのですが、むろとの中心部へ向かう際に海沿いを走ると、こんなにきれいなところだったんだと思っています。
陽太さん-
やりたいと思う遊びを自分で工夫したら全部できる。例えばカニやエビを獲りにいきたいなあと思ってできる環境は魅力だと思っています。バーベキューなどの制限も厳しくないです。アミューズメント施設などはないけれど、広場はたくさんありますよ(笑)。
鮎釣りできる川はきれいだし、うなぎも獲れるし。今の時代、天然で獲れるところは少ないですよね。
大地さん-
僕らが小さい頃、うなぎのつかみ取りができるイベントとかやっていたよね。つかみ方のコツとか教えてもらったりしながら。
大地さん-
僕ら兄弟はUターンなので、むろとでの暮らしはわかっています。でも、時々帰るのと暮らすとでは違うので、心の準備をして帰って来たかな。
引越しの際に、いろいろまわりの方が洗濯機や冷蔵庫とか準備をしてくれました。今の住まいのことも教えてもらったりして、そういう人づきあいがいいですよね。SNSやアプリなどで売買しなくても、地域の結びつきが強いからこういったやりとりができるんでしょうね。僕も経営しているので思うのですが、結びつきが強いから口コミとかで集客につながっているんだろうと感じています。
好奇心をかきたてる、むろとの自然とつながりを活かした次へのチャレンジ

己知子さんの将来への想いを教えてください
己知子さん-
部屋数が足りずお断りすることがあるので、もう少し部屋を増やしたいですね。それから、「土佐はちきん地鶏」を使った料理を作ったり、試食メニューを始めてみたりしたいですね。自身の年齢とも相談しながら、こんなことができたらいいなと考えたりしています。
いま高知県で打ち出している、『どっぷり高知旅』にハマっています。“ど絶景”“ど名産”“ど歴史”“ど親切”、素敵な発想ですよね。ここにはすべてが揃っています。ピッタリの場所です。そんな企画に一役買いたいと頑張っています。
宿泊拠点として、近隣の遊びのプロと一緒に体験プログラムを組んでアクティビティしてみるのもおもしろいのでは、と息子たちと話したりします。ゆっくりしたい人は何もしない時間を過ごしてもらって。アイデアはたくさんありますよ。


大地さんや陽太さんはいかがでしょうか
大地さん-
今の事業の運用が安定してきたら、ジムを作ったり、飲食にまつわることをやりたいとか考えたりしています。不便なことは解消できるようやってみたいと思いますね。
陽太さん-
今の目標は「土佐はちきん地鶏」飼育の安定です。軌道に乗ったら、直売所もしたいと思っています。
移住希望の方へメッセージをお願いします
己知子さん-
人にとっての生活スタイルとか捉え方次第かな。自然が好きな人にはとてもよいところだと思います。ただ、交通と医療の点では不便なことも。特に、こどもたちが小さい頃は病院が遠く感じていましたので、子育て世代はいろいろ調べてみると良いでしょうね。
大地さん-
自然の中で遊びたいとか好奇心があると、おもしろいところだと思います。いろんな人に遊び方を習ったり、人づきあいも楽しんだりできます。最近、移住定住を促進するチームに誘われたのですが、新たなつながりができました。むろとを元気づけるようなことをやりたいと思っています。
陽太さん-
自然豊かですが、不便なことも多い。でも、その不便なことを事業にしたらおもしろいと思いますよ。自分で一から楽しめる、そんな環境があります。地域の人ともかかわりがあるから、ワイワイしながらできるのも楽しいし。
一度、むろとを訪れてみるといいと思います。うちの民宿に泊まってもらったら、いろいろお話もできますよ(笑)。今まで宿泊された方で親しみもって、うちの母親を「おかあさん」と呼んでくれるようになるほど、うちはアットホームなので。
己知子さん-
歯朶尾家の四男になろうかなって言ってくれる人もいたね(笑)。
民宿をはじめて、生活が充実しています。ここでも次男が鍼灸の出張をしてくれるので、地域の方にも喜んでいただいているし、三男が育てた「土佐はちきん地鶏」は食事メニューとして提供しています。家族で力をあわせてできることはうれしいことですね。
大地さん-
以前、陽太がお遍路中の外国の方を連れてきたことがあったよね。
陽太さん-
ヒッチハイク中で宿泊施設を探していると言われたのが、うちだったという(笑)。
大地さん-
僕も鍼灸にこられたお客様が宿泊先を探しているということで、母の民宿を案内したりします。家族で協力しあったり、地域の人たちとのつながりが本当に楽しい。むろとは何かを始めるのにおもしろいところだと思いますよ。